最終更新時刻:2008年8月30日(土) 2時12分

-

Pixarの経営者としてのSteve Jobs

公開日時:
2004/10/26 09:11
著者:
umeda

「Coming to a screen near you on Nov. 5 will be "The Incredibles," a melding of superhero action and PG-rated comedy.」

Pixarの新作「Mr.Incredible」の公開が11月5日に迫っている(日本公開は12月4日)ということで、PixarとSteve Jobsについて、New York Timesに面白い記事が書かれた。

経営者としてはAppleよりもPixarのJobsの方が上

Pixar's Mr. Incredible May Yet Rewrite the Apple Story」である。最近はiPodの成功が大きく取りざたされているけれど、Apple創業者・経営者としてのJobsと、Pixar経営者としてのJobsを比べると、後者の実績のほうが圧倒的に優れているのではないかという視点をこの記事の筆者は持っている。

映画の世界に詳しい方には当たり前のことかもしれないが、Pixarのこれまでの軌跡を簡単に振り返っている部分からご紹介しよう。

「None of this was in view, however, in 1986, when Mr. Jobs acquired the computer graphics division of Lucasfilm for $10 million. The shop had invented a four-processor computer designed for displaying graphics. The technology was the answer, but no one knew what the question was. It could be used for creating very short animated novelties, but anything longer seemed impractical. Mr. Jobs initially thought that the best course was to market the $122,000 machine as an accoutrement for a radiologist's office, providing three-dimensional displays of CAT scans.」

なるほど、JobsとPixarの起源は1986年。18年前に遡る。Lucasfilmのコンピュータグラフィックス部門をJobsが1000万ドルで買い取ったのが始まりだったのだ。当時、この部門は「a four-processor computer designed for displaying graphics」を発明していた。隔世の感がある。

設立当初に今のビジョンはなかった

18年前、この技術ではいまのPixarから想像できるようことは何もできなかったから、Jobsは、この技術を1台10万ドル以上の放射線医向け装置に仕立て上げることを初期には構想していたくらいだった。

「Mr. Jobs had had the good judgment to name John A. Lasseter, formerly of Lucasfilm, as a Pixar co-founder, and to permit him to work unimpeded as the company's creative force. But even five years later, in early 1991, the prospects for the company were anything but bright.」

Jobsは、買収した部門を率いていた(のであろう)John A. Lasseterを共同創業者と位置づけ、自由にさせておいた。これはいまとなっては正しい判断だったということになるけれど、5年経過した1991年時点で、Pixar部門には明るい未来など全く見えていなかった。

Jobsはこの頃、Nextの経営に没頭していて、きっとPixarのことは心の中であんまり大きな位置づけではなかったのではないか。そしてきっとそれがよかったんだろうとも思う。

そして1991年、つまり13年前、PixarとDisneyが出会うあたりから、現在に至る流れが始まる。

「The year 1991 would be important. Mr. Lasseter felt that Pixar was ready to try an hourlong television special and made a pitch to Disney.」

コンピュータの性能が上がり、Pixarの技術もようやく進化して、1時間くらいのテレビ番組くらい作れるようになったので、PixarがDisneyに売り込みに行く。Disneyから映画にしてみないか、と逆提案されて、結局それが1995年、その4年後の「Toy Story」のヒットにつながった。でもここでも4年という長い歳月がかかっている。

ビジネスモデル確立後の急成長

しかし、いったんビジョンが見えたあとのJobsは凄かった、というのがこの記事の筆者の考えだ。

「It was Mr. Jobs who figured out what Pixar would need to realize its vision. It was Mr. Jobs who, in 1997, renegotiated the Disney deal to secure an equal share of profits, excluding distribution costs. And it was Mr. Jobs who has guided Pixar to its current position, in which it no longer needs a partner to help finance future productions.」

1997年には、Disneyとの契約を更改して興行収益を折半するビジネスモデルを確立し、これまでの5作品で、立て続けに大ヒットを出し続けた。

「The run began in 1995 with "Toy Story," the first animated feature generated entirely by computer, a multiple award winner and the highest-grossing movie of that year. From then to now, Pixar has a perfect record. It has released five features to date. All five were critical successes, and all five were commercial blockbusters.」

Pixarのサイトに行くと、これまでの5作品「Toy Story」、「A Bug's Life」、「Toy Story 2」、「Monsters, Inc.」、「Finding NEMO」と並んで、11月5日公開の「The Incredibles」のポスターが並んでいる。まぁ、これだけが製品、つまり成果だというのは、1986年当時Jobsが想像した1台10万ドル以上の医用装置事業とは、何と異なるビジネスであることか。

10年後に芽が出る技術を見守る余裕

1986年に仕込んだ技術が、想像していたのとは全く違うビッグビジネスに10年後に化け、18年後の現在も、それが成長しているわけで、こういう「時間の堆積」の重要さをPixarの成功は教えてくれている。

またその間のJobsという経営者の「緩急」も見事だ。ただ、やいのやいの言っても仕方ない時期は放っておいて、当事者に好きなことをさせておく「余裕」が、その「緩急」につながったのであり、最近はこういう「余裕」が日本企業から失われているような気がしてならない。

「Patience is the watchword at Pixar.」

という大切な文章がこの記事の途中に出てくる。
「patience」(忍耐、我慢、辛抱強さ、根気)こそがPixarの「モットー」であるというこの文章は、

「Patience is the watchword at Pixar. Over time, it has reduced the intervals between feature releases, but it has never cut corners to reach its goal of one film a year.」

Pixarが手抜きせず(DreamWorksとの対比で)に、一本一本の映画を手間をかけて作るという文脈で書かれているが、それはもっと一般化して言えるような気がする。つまり、Jobsが何かを仕込むとき、つまり「緩急」の「緩」の時期に開発者に求めることが「patience」なのだ、ということを意味しているのではないだろうか。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。シーネットネットワークスジャパン および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。

このエントリーへのコメント

ブログにコメントするにはCNET_IDにログインしてください。

この記事に対するTrackBackのURL: 

このブログについて

ブロガープロフィール

アーカイブ

カテゴリ

  • 未分類

ブログネットワーク

アルファブロガー

佐々木俊尚 ジャーナリストの視点グーグルはストビューで「よそ者」化する
佐々木俊尚 ジャーナリストの視点
クロサカタツヤの情報通信インサイト北京オリンピック
クロサカタツヤの情報通信インサイト
江島健太郎 / Kenn's Clairvoyance新サービスをローンチしました
江島健太郎 / Kenn's Clairvoyance
村上敬亮 情報産業の未来図コンテンツ市場14兆円の中身と行方
村上敬亮 情報産業の未来図
末吉隆彦 ロケーションウェアの「空」と「実」場所・空間を増幅!?「ロケーション・アンプ」
末吉隆彦 ロケーションウェアの「空」と「実」
鈴木健の天命反転生活日記パラレルワールドとしての電脳コイル
鈴木健の天命反転生活日記

読者ブロガー

なにわのITベンチャー社長BlogWEB2.0 じゃなくって PC0.5
なにわのITベンチャー社長Blog
インターネットの裏側を探しましょtaspoの必要性とタバコ屋でのコミュニケーション
インターネットの裏側を探しましょ
電子政府パブリックコメントの抜粋できるだけ検索せずに情報を集める(試してみます)
電子政府パブリックコメントの抜粋
木田わをんのパソコン武士道@Tovas for AppExchangeのセットアップを30分で完了
木田わをんのパソコン武士道
夢幻∞大のドリーミングメディア夢幻∞大のエントリーアクセスランキング(8/29編)
夢幻∞大のドリーミングメディア
ネットのニュース.logMacBook touchは、登場するのか?
ネットのニュース.log

企画特集

仮想化環境で求められるストレージの要件仮想化環境で求められるストレージの要件
それに応えるNetAppの実力とは?
DELLが掲げる「新・仮想化アセスメントサービス」DELLが掲げる「新・仮想化アセスメントサービス」
〜企業システムの仮想化環境の構築を支援〜

新着コメント

たばこによる経済効果よりも関連の損失額の方が何倍も大きいという試算があり......
taspoの必要性とタバコ屋でのコミュニケーション
投稿者:PowerYOGA
こういうのいいですね!ちなみにCNETブログのシステムは全然進化しないですね......
夢幻∞大のエントリーアクセスランキング(8/29編)
投稿者:尊仁
櫻吉さん、いつもお世話になっています。アクセス順に並んでくれるとありがた......
夢幻∞大のエントリーアクセスランキング(8/29編)
投稿者:mugendai
「アダムとイブが楽園を追放されたのは、神様の言いつけを破って禁断の実を食......
毎日新聞社内で何が起きているのか(下)
投稿者:keijizyou
きむこうさん、コメントありがとうございました。 > 「お客さんが絶対必要......
新しい開発手法:初期にユーザインターフェースを完璧に作れば、最高の要件定義になる 2
投稿者:生島勘富

ブログネットワークとは?

CNET Japan ブログネットワークは、元はCNET Japanの一読者であった読者ブロガーと、編集部の依頼により執筆されているアルファブロガーたちが、ブログを通じてオンタイムに批評や意見を発信する場である「オピニオンプレイス」、また、オピニオンを交換するブロガーたちが集うソサエティです。

広い視野と鋭い目を持ったブロガーたちが、今日のIT業界や製品に対するビジョンや見解について日々熱く語っています。

あなたもブログを書いてみませんか?

CNET Japanやその他サイトが提供するITニュースやコンテンツへの意見や分析、 ビジネスやテクノロジーに対するビジョンや見解について語っていただける方を 募集しています。ご応募はこちらから

ブログの投稿・管理

ブログの投稿はこちらから(※ブロガー専用)

ブログアワード2007開催決定!

今年最も活躍したブロガーを表彰します。詳細はこちらから

αマークって?

これは、CNET Japan 編集部の依頼に基づいて執筆されているCNET Japan アルファブロガーによるブログの印です。

Good!って?

CNET Japan ブログネットワーク内で拍手の代わりに使用する機能です。ブログを読んで、感激した・役に立ったなど、うれしいと思ったときにクリックしてください。多くGood!を獲得した記事は、より多くの人に読まれるように表示されます。

レビュー

[レビュー]高い信頼性を普通に使う地球に優しい電源ユニット--Antec EarthWattsシリーズ EA-650
“自作ユーザーは、電源ユニットに何を求めるのか?”出力なのか、安定性なのか、それとも機能性なのか?難し
今週の新製品総チェック:ノート、デスクトップ、UMPCまでPC秋モデルが続々
富士通、NEC、東芝などのPCメーカーから続々と新製品が登場した。ノートPC、デスクトップPCに加え、注目の
今週の新製品総チェック:薄さ13.9mmのサイバーショット登場!NEC「LaVie」はデザインモデルが
最薄部13.9mmのソニー「サイバーショット」、ニコンのGPS内蔵デジカメ「COOLPIX」など、機能性、デザイン性