本欄ではたびたびRich Karlgaardのコラム(Forbes誌)を取り上げてきた。
なぜか彼が取り上げるテーマが気になったからだ。気になることのツボが近いのだろう。
住む場所を選ぶ時代--価格破壊の10年
7月8日「ビジネス環境の分散化が社会を変える」で軽くご紹介した彼の近著「Life 2.0」を買って読んでみた。テーマは「The where of happiness」(どこで生きるか、つまり住む場所を選ぶことと、幸福の関係)なのであるが、そういうことを考える背景としての時代認識として、彼の持論である「The decade of cheap」(価格破壊の10年)についての考え方もまとめられている。
「Book Excerpt Life 2.0」を少しだけ読んでみよう。
「My hope is that you'll be inspired by their stories of personal reinvention and triumph--especially if you are among the millions of Americans who feel pressured by the costs, treadmills, stresses, status competition and insecurities of post-boom, post-Sept.11 urban coastal living. A growing number of Americans are seeking a larger life in a smaller place. Many are finding it.」
と自ら要約しているように、この本のテーマは、生活コストが安くストレスレベルの低い田舎に移り住んで幸福を追求せよ(ブロードバンドをはじめとするITもそれをサポートする)、ということである。そう主張する背景がいくつか挙げられているが、経済的要因をこうまとめる。
「The stock market may have entered a 15-year period during which it will underperform relative to the historical average (the boomlet of 2003 notwithstanding). There goes your portfolio and retirement savings! As to your salary, well, China, India and other low-cost nations have entered the scene. They are pouring scores of millions of hardworking, white-collar workers into the global labor force. This could dampen American salaries and bonuses for at least a generation to come.」
アメリカ人の老後の設計は、株式市場に大きく依存しているわけであるが、向こう10年、株式市場の堅調な上昇はあまり期待できないのだから、生活コストを安く人生設計し直したほうがいいし、給与レベルだって中国・インドの厖大な労働力と競争になるのだから、上昇しないぞ、ということである。
「年収300万円時代」の米国版
2000年代の次の10年から15年は、アメリカ社会全体としてみると、1929年の大恐慌後の1930年代ほどひどくはないにせよ、それに似たような時代になるだろうという諦めがあって、でも「Cheap Decade」でもあるから、消費者としてその恩恵にあずかり、その範囲で幸福は追求し得るという論だ。その意味では、日本で盛んに言われている「年収300万円・・・」のアメリカ版とも読めるわけだが、地方都市への移住がその解である点が、アメリカの特徴かもしれない。
Robert Reichの「The Future of Success」(邦訳「勝者の代償」)と共通の問題意識を持って、地方都市への移住という解を中心に思い切り大衆向けにまとめた本ともいえる。
「The sophistication gap between urban areas and smaller cities and towns has narrowed, thanks to technology (broadband Internet, cable television, satellite radio, overnight delivery, etc.). Yet smaller cities and towns remain vastly cheaper from a housing standpoint. They are also freer of the numerous "status competitions" (the social pressure to drive a fancy car, enroll the children in private schools and take European vacations) that further drive up the cost of professional middle-class life in the big cities and suburbs.」
アメリカ人が人生設計を考える上で重要視する要素は、突き詰めていくと、住宅と教育である。広い家に住むということはアメリカ人にとって死活問題なのだが、当然のことながら大都市圏ではそのコストが高い。また、大都市圏で子供にいい教育を受けさせようとすると、べらぼうなコストがかかるというアメリカ固有の事情もある。
ミドルクラスが大都市圏に住めない
「Q&A: Rich Karlgaard」には、著者インタビューが掲載されている。彼が強調するのは、「Professional middle class」が大都市圏に住めなくなってしまった、ということだ。
「The compensation a family needs to attain professional middle-class status in cities such as Boston, New York and San Francisco is hard to achieve. Here's why. During the 1990s, the professional middle class often had three sources of income: salary, bonus and stock option gains. Today, the latter two are mostly absent.」
「But it's just as easy to consult from Madison, Wis., where the average house price is $280,000, as it is from San Francisco or New York, where the same house will set you back $1.5 million.」
これはシリコンバレーにも共通する問題で、GoogleのIPOなどもあって供給の少ない高級住宅街の住宅価格は上昇しているが、社会全体としてみれば、給料は上がらないし、ボーナスやストックオプションによるゲインなどほとんど出ないから、いい住宅はますます高嶺の花になっていく。ならば思い切って、地方に移り住んで、ITを頼りにプロフェッショナルとしての仕事を実現しつつ、仕事と生活のバランスを取る生き方を選ぶことがよいではないか、そういう問題意識を持つ人が、Richの論に共感するのである。
インタビューの中で、Richは、本欄4月22日「地域差を利用した米国ナレッジワーカーの新しい生き方」でも紹介した田舎に移住しつつシスコに勤め続けるエンジニアの話を再び取り上げて、今後は、企業側もこうした雇用形態をより受容していくのではないかと予想する。
明日から村山さんのゲストブログ
さて、8月26日(木)から9月3日(金)までの7回は、半年ぶりに、村山尚武さんにゲストブログをお願いしました。盛りだくさんの内容が期待できますので、どうぞお楽しみに。
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