最終更新時刻:2008年10月10日(金) 23時50分

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GoogleのIPO申請、そのやり方に異議あり

公開日時:
2004/05/04 09:29
著者:
umeda

連休前の3日間、石黒邦宏さん、ゲストブログ、どうもありがとうございました。たいへん好評だったので、また近いうちにお願いしたいと思います。

さて、連休中はGoogle株式公開の話題で盛りだくさんであった。既に厖大な量の記事やBlogが書かれているので、詳細はそちらに譲りたい。

結論から言う。僕は、この株式公開計画のままGoogleがIPOすることには反対である。

公開後時価総額や調達資金の総額がどうなるとか、その結果誰がどのくらいリッチになるとか、競売方式でのIPOだと入札が殺到するだろうか(注記: 本欄4月23日「LOOP連載を終えて - シリコンバレーの重鎮が考える未来」の中で、「GoogleはオープンIPOを採用しなかった」と書いた部分は誤った推測であった。連休中だったため手早く訂正できなかったことを、ここにお詫びしたい)とか、そういうことはどうでもいい。ルールの許容範囲にあることだと思うからだ。

Googleのコーポレートガバナンスに問題あり

問題の本質は、公開後のコーポレートガバナンスにある。2人の創業者が、一般の普通株に比べて強い議決権を持つ別種の普通株を保有し続ける構造をGoogleは提案しているが、これは許容すべきではない。そして、もっといえば、その背後にあるGoogleの唯我独尊的経営思想に危険を感じ、深く懸念する。株式公開という重要なターニングポイントにおいて、その点を、きっちり創業者たちにわからせておかなければならない。

僕は、Googleというベンチャーは物凄いことを始めた会社だと、深い敬意を抱いている。だから本連載開始時から、過剰なほどにGoogleについて取り上げてきた。「テクノロジーとその事業化」に関していえば、Googleが1998年から2004までの間に成し遂げた達成は、シリコンバレー史上最高と言って間違いない。しかも、主観的ではあるが、これほどまでに「美しい」新事業創造というものを、僕は他に見たことがない。

しかし、その延長線上で、「公開企業の経営」を考えてはいけない。責任の重い「公開企業の経営」を甘くみてはいけない。創業者たちは、おごってはいけない、調子に乗っちゃいけない。

IPOで普通の会社に生まれ変わるのがバレーのルール

ベンチャーが公開企業になるというのは、広く一般の人を巻き込んで資金を調達する代償に、「リスクを承知した身内だけですべてを按配できる」経営体制(Google A)から「透明性の高い」経営体制(Google B)に生まれ変わり、その結果として「より良い」経営が指向され、社会全体にプラス効果を及ぼすこと、それが事の本質である。

しかし、創業者たちは、Google Aのままでの株式公開を企図して、異例の資本構造を導入しようとしている。2人の創業者が株式公開したくないと言ってごねているという噂はずいぶん前から聞いていた(本欄4月13日「回復ぶりをしめすシリコンバレー企業150社」)が、ごねた結果がこれだったとは愕然とする。ボードメンバーが、これまでのルールを破るこんな異例な資本構造を導入したいと望むわけがないから創業者の無理が通った結果に違いないが、こんな案を是認したボードも腰抜けだと思う。

SECへの申請書類の中の、「Google創業者が、将来の一般株主に宛てて書いたレター」("An Owner's Manual" for Google's Shareholders)における

「We are creating a corporate structure that is designed for stability over long time horizons. By investing in Google, you are placing an unusual long-term bet on the team, especially Sergey and me, and on our innovative approach.

We want Google to become an important and significant institution. That takes time, stability and independence. We bridge the media and technology industries, both of which have experienced considerable consolidation and attempted hostile takeovers.

In the transition to public ownership, we have set up a corporate structure that will make it harder for outside parties to take over or influence Google. This structure will also make it easier for our management team to follow the long term, innovative approach emphasized earlier. This structure, called a dual class voting structure, is described elsewhere in this prospectus.

The main effect of this structure is likely to leave our team, especially Sergey and me, with significant control over the company's decisions and fate, as Google shares change hands. New investors will fully share in Google's long term growth but will have less influence over its strategic decisions than they would at most public companies.」

の部分である。「創業者2人が長期的に経営に関与することを保証することこそが、Googleのため。よってそのために「a dual class voting structure」を導入した。結果として、創業者2人が「significant control over the company's decisions and fate」、Googleの意思決定と運命を構造的にコントロールする。一般株主は「will have less influence over its strategic decisions」、つまりGoogleの意思決定に関与できる度合いが小さくなる。それが長期的に株主のためなのだ」というのが彼らのロジックであるが、ここに問題点のすべてが集約されている。

他にも、短期的な業績予測は発表しないとか、株主は長期的に株を保有するつもりで株を取得してくれとか、身勝手なことばかり書いているが、そういう定性的な問題は、あとから外部のプレッシャーでどうにでもなるから、ここでは取り立てて1つ1つあげることはしない。問題は、資本構造という企業の根幹にあたる部分に、固定的な枠組みを導入することの危険なのである。

世の中というのは、どこかで、社会のルールと折り合いをつけなければならないポイントがある。ベンチャーの場合なら、それが「公開するとき」、というのが常識である。公開した時点で、Google Aは、Google Bに生まれ変わる。その代償に莫大な成功報酬が創業者にもたらされる、というのがシリコンバレーのルールだ。Google Bは、他の公開企業と全く同じような構造で経営される。そのルールを前提に、ごく普通に今Googleは株式公開すべきだと、僕は考えている。「IPOしない」というオプションは、エンジェルやベンチャーキャピタルからリスクマネーを調達して成長してきたGoogleには存在しないわけだし(Google創業者は借金して自己資金でこの事業を立ち上げてきたのではないのだ)、今よりもさらにIPOを延ばせば、問題はより大きくなって先送りされるだけだからだ。

非公開企業と公開企業のいいとこ取りが持つ危険

別の視点からいえば、このたびのGoogle株式公開案は、「非公開企業であること」と「公開企業であること」の両方の「いいとこ取り」を目指す、極めて傲慢なものだとも言える。

たしかに、Googleは「非公開企業の良さ」を活かして、ここまで成長してきた。非公開企業には、一般への情報開示義務はないから、Googleはこれまで秘密主義を貫くことができた。だからこそ勝ってくることができたという思いはあろう。「俺たちは大変な才能を持った集団なのだ、だから短期的な視点にこだわらずに、長期的な視点で俺たちに任せてくれ、悪いようにはしない」と、これまでの実績をもとに、創業者たちが強く言いたい気持ちもよくわかる。

ただ、エンロンが最も直近の例だし、90年代後半に破綻したLTCM(ロングターム・キャピタル・マネジメント)の例を出してもいいが、「飛び切り頭のいい連中を集めさえすれば、物事はすべてうまくいく」というのは、極めて特殊で限定的な場面でのみ有効な考え方だ(僕は、この考え方自身は決して否定していない。それは正直に言っておく。特に、「最先端テクノロジーの開発とその事業化」という局面ではかなり有効と肯定もしている)。

でも、世の中というのは何が起こるかわからない。逆風が吹いたとき、こういう才能至上主義的発想に基づく唯我独尊経営は、暴走する危険を孕んでいる。非公開企業ならば、暴走した結果クラッシュしたって、その影響は「リスク承知で関わった身内」だけに限定されるからいい。しかし公開企業はそうはいかない。だから「経営の透明性」が、歴史の中でのさまざまな経験を踏まえて、コーポレートガバナンスのルールという形で組み込まれている。そのルールを軽視してはいけないのである。

そしてコーポレートガバナンスのルールの根幹は、どうにもしょうがなくなったら「株主が経営者を変えることができる」ということだ。それをGoogleの創業者たちは、美辞麗句に包んで、徹底的に拒絶している。しかも構造的に。

Googleの社会的責任は大きい

シリコンバレーはほんの少し前に、大きなバブルを引き起こした。その反省期に入って早三年以上が経過した。反省の中には色々な行き過ぎがあって、「その行き過ぎこそが起業家精神を萎えさせている」と強気な発言をする人たちもいることは承知しているが、僕は、このくらいで今はちょうどいいと思っている。そんな中、シリコンバレーの期待は一心に、Googleに集まっている(むろん、それはひとえに、Googleの「テクノロジーとその事業化」のこれまでの達成が素晴らしかったからだ)。仮にGoogleが暴走の末に破綻すれば、シリコンバレーや米国の起業家主導型経済が受けるダメージは、ものすごく大きくなる。そういう意味で、Googleが負っている社会的責任は、創業者たちが想像する以上に、既に巨大なものになっている。

これまでの「公開企業の資本構造のルール」に則って、粛々と株式公開するので、何が不足なのか。

Googleの唯我独尊的経営思想をチェックする機能を、どうしても「株式公開」時に、コーポレートガバナンスの形で、構造的に組み込まなければならない。再度、結論を言う。僕は、この株式公開申請のままGoogleがIPOすることに、反対の意を表明する。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。シーネットネットワークスジャパン および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。

このエントリーへのコメント

4

私は、梅田さんの意見に賛成します。
物事には、常に変えていいものと、変えてはいけないものがあると思います。
この場合、「公開企業には、経営の透明性を担保する構造が必要。」ということが、変えてはいけないことだと思います。
つまり、公開によって膨大な資金(力)を手にした創業者が、自らの意思に関係なく、常に、経営の「社会に対する」透明性を追求されるチェック構造なくして、果たして今までのように「謙虚に」社会のニーズに基づいて、自らを変革していくことができるのか?、今までの人間の歴史において、そのようなことができた人間がいたのか?、と思わずにはいられないからです。
Googleの創業者には、ぜひ、「経営の透明性を追求される」というチェック構造を自らに課した上で、新しい高みを目指して頑張ってもらいたいと考えます。

  Kazu on 2004/05/09

3

梅田殿 May 06, 2004. USA.

Google's IPO, and Corp. governance
IPOの方法として既存法に則るのが好いのか、亦獨自的方法等の善し
悪しは投資家、創業(者)会社、間接的には会社の提供するものを
利用するエンドユーザも含め、各々の立場から異なった意見はある
だろう。因みにこの様な経営法(Google's IPO如く)は、中立的な
立場を必要とするPublisher等違った業種でも多く履行、実用されて
おりけっして珍しくはない。

投資家(特にFinancial Institutes等)の見地だと:今後、この様なIPO
が一般化して主流になると、死活問題と迄大袈裟でなくとも、旨味
(儲け口・高)が減りかねない、亦自分達が考えている旨味の拡大
(時にShort Termによる)や、リスクの回避(経営参画)等が非常に
難しい。中小VC等は今回の様な大型IPOと共に期待できる大成長の
Chanceが見込めなくなる。

創業者側から鑑みると:起業にあたりVision, Policyを持ち、行動を
起こし、そして上述のエンドユーザに受け入れられ、更に従業員にも
支えられ今日の(大)成功に至っている。そうしたConfidenceは
今後の発展の妨げにはならない。社会貢献も含めより一層の飛躍を
志すだろう。リスクとして考えられる:Short Term Inv.からの
PressureやHostile-Take over等の回避は可能。中立的な立場でより
よいサービスを開発、提供する事が容易、且つ可能。既存の枠を
越え新領域へのChallenge(Pioneer spirit)。

自分の立場から量り「傲り」「調子に乗っている」とか見るのでは
なく、今回のIPO法の善し悪しや、今後の彼等の経営は一般社会が
受け入れるかどうかで決まる事であり、各々の立場からもの申す
のでなく見守ること肝要である。

確かに公開会社になれば社会責任は増大する。その会社(経営)を
疑問に思うなら投資しない、利用しない、関わらない事(と単純に
言い切れないが)。

時に公開会社の経営が難しいものになるのには、應々にして外部からの
圧力、特にFinance Institute(Wall Streetの輩、VCs)等に因る場合が
多い様子。それ等は記憶に久しい大事件(大手企業の破綻、CEO/CFO
等、経営責任者達の不正行為)において検証されている。

最後に、人類の進化は突然変異から始まり、亦科学の進歩も既存の
枠を越え研究・開発される事で成し遂げらる。Darwin説の様に環境
にそぐわないもの(今回の場合は「世の中に受け入れられない」)は
自然淘汰され消滅する。
中傷ですが、貴方の様な意見はここ米国ではさほど見当たらない
様子。流石にGoogle等特異性のある集団を生み出した土壌、その
特異性を見守っていると感じますが。
以上、誤字誤謬、ご寛恕下さい。
Masa K.

  Masa K. on 2004/05/07

2

このコラムを見て最初作者は経営者ではないと感じた。
その後作者が7年間も会社を運営されている梅田氏と知って
更に驚いた。
私はGoogleがこのままのIPOすることを強く支持する。
Googleがいままで普通のIPOを考える企業が採らない、変わった方法を採って来たことが、これまでの成功に繋がっていると考える。
通常企業はIPOを期に普通の(まともなとも言う)企業に
変わるべきだということも異論は無い。
然しながら、IPOを中心とする社会的なシステム自体が現状のネット企業を中心とする創造的な企業にとって、足枷になり、結果的に公共の利益に反することもある。
Googleの創業者達のいう「言い訳」は一定の合理性があると感じる。
梅田氏はIPOするなら普通のルールに従えと主張されている。そう考えればGoogleがエンジェル達から株を買い取って未公開を貫く選択肢も考え得るが、Google程社会的に大きな影響力を持つ企業であれば、市場が株価を通じて経営者にメッセージを送ることができる公開企業になったほうが、公開しないことに比べて社会的にプラスであろう。

私はGoogleは山内溥氏が社長であった頃の任天堂に似ていると感じる。
ご存知任天堂も立派な一部上場企業であるが、社是も社訓も社章も無く、創造性を発揮することに重点を置く、ユニークな経営と山内氏の強力なリーダーシップで世界的企業に成長した。
経営理念やビジョン等を重視する普通のIPO企業との違いは目指すレベルの高さだと思う。
普通のIPO企業とは違う更に高い次元を目指す際に、社是社訓は仕事の邪魔、財務計画なんて重視できるかという一種悟りの境地に達することはご理解頂けるだろうか?
これはオーナーのエゴ等では無い。生活必需品ではない分野でベストの経営を目指すと普通の(まともな)企業に変わることは到底受け入れられない。
Googleには今までの実績と企業風土から、普通のIPOではなく更に高い次元を求める資格がある。
創業者達はその次元に30代の若さで達し、株を買い取り未公開を貫くことより、公開した上で更に高い次元を求めるという決断をしたと思う。公開した方が未公開を貫くより社会の利益になるという判断をしたならボードが反対しないことも当然と言える。違う理由で判断してもボードがこのまま公開することに賛成したことは責められない。
私が創業者達と同じ年齢になったとしても、経営者として同じ境地に達することは不可能に近いと思う。
それを承知で梅田氏に生意気を言わせて欲しい。

彼らの達した経営者としての境地は普通のIPOを目指す企業のレベルを超えている。一般論で批判せずに、彼らのやり方が新しい公開企業の手本となる事を期待して応援してあげて下さい。

  GG on 2004/05/07

1

「Googleのいいとこどり」は、持合などで日本の多くの公開会社が享受しているメリットでもありますね。

Googleが今回のstructureを取ったことによるリスクは
--唯我独尊で結局事業がうまくいかなくなる
--しかも、会社売却など思い切った手段も、強力なファウンダーたちに拒まれタイムリーにできない
--結果事業は尻つぼみに
--そして企業価値3兆円(SJ Mercuryの試算ではYahooをcomparableとして使うと$50B超だそうですが)は雲散霧消
ということでしょうか。

確か、Martha Stewart Living Omnimedia(MSO)はファウンダーがマジョリティvoting rightsを持ったまま公開したのではないかと思いますが、corporate governanceとは別のところで結局topが失脚しましたね。ちなみに、MSOのpresidentはMSOのかなりの%を買ったSan FranciscoのPEファンドのヘッドの人になったというニュースがこの間ありましたが、事業がうまくいかなくなって企業価値が減れば、こういううるさいマイノリティオーナーが入ってくる可能性もあります。

ただ、確かにGoogleが言うとおり、アメリカのcorporate governanceがshort term focusに走っていることも事実。ここはGoogleに
「ちょっと日本型governanceをアメリカという市場でやってみる」
というトライアルをしてみてもらって、何が起こるか観察する、というのが面白いと思っています。「限界は、限界を超して見なければそこが限界だとわからない。」ここは一発Googleに限界を追求してもらいたいと。:-)

  chika on 2004/05/06

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