むろんシリコンバレーには無数のコミュニティがある。ギークのコミュニティ、カネに対する執着心がものすごく強いリッチ連中のコミュニティ、出身国や人種・言語・民族的なつながりを中心としたコミュニティ、起業家で殿堂入りしたような人達のコミュニティなどなど。でもそういうたくさんのコミュニティの中で、もっとも伝統的で、かつシリコンバレーを色々な意味で良心的に下支えしているのは、「政治的にはリベラル、知的レベルがものすごく高く、グローバル・マインドに溢れた、とても質素な人達」のコミュニティだ。スタンフォード大学の教授、さまざまな分野の学者、研究者、ジャーナリストらを中心としたこのコミュニティの集まりに出ると、何だかほっとした気分になるものだ。
アメリカの大学町によくあるコミュニティだとも言えるのだが、リスクテイクや起業家精神のクレージーさを尊重して楽しむ感覚、西海岸のフロンティア精神を引き継いだ遺伝子、口先だけではなく本当にさまざまな人種の人達と分け隔てなく付き合う気分、といったところが独特のスパイスになって、東海岸の大学町とは違った、シリコンバレーならではのコミュニティになっていると思う。San Jose Mercury Newsのダン・ギルモアなどは、このコミュニティを代表する論客だと言っていいだろう。
今こそ現実を直視しよう
その彼が、シリコンバレーに対して、アメリカに対して、強い危機感を表明している文章を書いた。「Now is time to face facts, make needed investment」である。とてもいい文章なので、ぜひお読みいただきたいと思う。
「今こそ現実を直視し、必要な投資を」というタイトルのこのコラムの冒頭は、
「Can Silicon Valley compete in a true global economy? Once, this would have seemed like a foolish question. No more.
The valley, and America as a whole, had enormous competitive advantages for decades. But conditions have changed in dramatic ways -- such as the composition of the global workforce and emerging entrepreneurialism in other places.」
シリコンバレーは真のグローバル・エコノミーにおいて競争できるのか。「そんなバカな質問はしなくていい」なんて驕っている時代は終ったんだぞ、というのがダンのメッセージだ。それは時代が大きく変わったから。脅威はグローバルな労働力と、他地域における起業家精神、起業家経済の勃興だ。
「With few exceptions, our leaders are not facing up to some of the most serious issues. But if we don't start planning -- and investing -- right now for the challenge, we could face troubles that would make even the worst recessions of the past half-century seem tame.」
ほんのわずかの例外を除き、アメリカのリーダーはこの現実を直視していない。でも、いま新しいチャレンジに向けて、きちんと計画を始めて投資しなければたいへんなことになる。
「The situation is simple enough on the surface. Core elements of Silicon Valley's economy, and the nation's, are moving offshore. And what remains will be under severe price and wage pressure.
Why now? Because the technology of communications and collaboration has shrunk the world. And because the world economy is being flooded with well-educated people, many of whom speak English and are willing to work for a fraction of what Americans earn.」
この部分は、本欄で何度も問題提起しているオフショアへの仕事の流出、ジョブレス・リカバリーという、現在の米国における確かなトレンドに対する危機感の表明である。
「This trend offers major positives in a big-picture sense. Anything that raises the standard of living in developing nations is good by definition, both in terms of an expanding global economy and a reduction of the kinds of political tensions that afflict poorer societies.」
「And it's good for some American companies. Eric Schmidt, chief executive at Google, Silicon Valley's fast-growing star, observes that his company benefits from any expansion in the number of people who need better tools for managing information.``It's likely,'' he says, ``that China will be the biggest opportunity before Google for the next 20 years.''」
そしてその直後のこの2つの文章(1つ目は「世界全体で見ればこのトレンドはいいことなのだ」という認識、2つ目は「Googleのような米国企業にとってのグローバル事業機会が大きい」という認識)が、ダンやダンのコミュニティの人達による議論の運び方を特徴づけている。決して、アメリカ一国主義、保護主義には向かわないのである。
あまり引用ばかりしても悪いので、ぜひ、続きは原文でどうぞ。
アメリカは何に投資すべきか
結論部分に飛ぼう。
「First, we have to face facts. Then we have to invest.」
では現実を直視した上で、アメリカは何に投資すべきなのか。
(1)「We have to invest in our domestic communications infrastructure」
米国内の通信インフラへ投資せよ。ご承知のようにアメリカの通信インフラは、日本などに比べて大きく遅れを取っている。
(2)「We have to put more into basic research, and we have to invest in education」
基礎研究と教育への投資。高等教育の質は高いが、初等・中等教育、特に公立の学校はひどいことになっている。そこを何とかせよ。
(3)「We have to deal with the health care meltdown.」
ヘルスケア崩壊問題を何とかしろ。これはアメリカで最も深刻な問題である。医療にカネがかかりすぎるし、貧困層はまともな医療を受けられないのが現実である。
(4)「And we have to stop living so far beyond our means.」
国家も個人も、自分の資力・収入に見合わない借金体質の暮らしを改めよ。
アメリカの最後の砦はリスクテイキング
そしてダンは、突き詰めていくと、アメリカの最後の砦は、リスクテイキングなのだ、と言う。
「We still have one big advantage: risk-taking. More than any other developed nation, the United States encourages people to take economic risks, and our renewed culture of entrepreneurialism has brought us a long way in recent years.」
でもこの最後の砦にも、他地域が追走してきている。シリコンバレーの成功要因は、リスクテイキングの文化、豊富な投資資金、優秀で高い教育水準のハードワーカーの存在、素晴らしい大学の研究環境ゆえだ。そこはむろんまだ損なわれてはいないけれど、特にアジア(彼の言うアジアは、日本ではなく、インドや中国であろう)からの追い上げがここにまで及んでいるから、これからは本当に大変になるとダンは言い、
「Troubling times are ahead. We can emerge stronger if we face up to what's coming. Will we?」
こう問いかけてこのコラムを終えている。冒頭でご説明したダンが代表するシリコンバレー・インテリ・コミュニティの、現在のアンビバレントな気分がわかっていただけるのではないかと思う。
Blogと新しいジャーナリズムのあり方を探る本
余談になるが、ダンは今、Blogと新しいジャーナリズムのあり方をテーマとした「Making the News」という本を書いている。
原稿をすべてネット上で公開して、
「My editors and I are most interested in your immediate feedback on:
What's missing -- that is, a topic or perfect anecdote that absolutely has to be included.
More important, what's wrong. If there's a factual error I want to fix it before the book is published.」
と呼びかけ、出版前に読者からのフィードバックを集め、それをもとにより良い本を書こうと努力している。実際にこのサイトに行くと、序章から第4章までのドラフトが公開されていて、そこにたくさんのコメントがついている。E-mailはもっともっとたくさん彼のもとに集まっていると思われる。僕などは、こんなふうにして本を書くなんて大変そうだなぁなどと思うばかりなのだが、こうした仕事の仕方の背景にある考え方も、冒頭にご説明した彼のコミュニティの特徴を補助線に考えると、なるほどなぁ、と思っていただけるかもしれない。
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