最終更新時刻:2008年8月30日(土) 2時12分

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GoogleのCEO、エリック・シュミットが考えるIT産業の未来

公開日時:
2003/05/28 10:00
著者:
umeda

「Forget Moore's Law」(ムーアの法則など忘れてしまえ)論議は、2003年IT産業界における知的に最も刺激的な議論と言っていい。IT産業界の次の10年を生き抜く上で、この問題に対してどういう立場を取るのかは、実に重要である。

Googleのチープな開発手法が投げかける問題

議論の発端は、2月にRed Herring誌に発表された「Forget Moore’s Law」(by マイケル・マローン)であった。難解な論考ではあるが、きちんと考えたい人は、このオリジナル論考がどういう問題提起なのかを理解しておくのは価値があるので、原文に当たってみてください。要約すれば、ムーアの法則の技術的限界は産業界全体の努力でもうしばらくは克服できそうであるが、そんな方向に向かって産業界が一致団結して努力いくことに本当に意味があるのだろうか、という問題提起である。そしてこの問題提起は、本連載でもご紹介したGoogleの「最先端チップを使わない巨大システム開発の考え方」があまりにも斬新であったことに刺激されて書かれた。

「It was a statement by Eric Schmidt, CEO of Google. His words were both simple and devastating: when asked how the 64-bit Itanium, the new megaprocessor from Intel and Hewlett-Packard, would affect Google, Mr. Schmidt replied that it wouldn't. Google had no intention of buying the superchip. Rather, he said, the company intends to build its future servers with smaller, cheaper processors.」

GoogleのCEO、エリック・シュミットは、Itaniumについて感想を聞かれて、そんなものはGoogleには関係ない、Googleはスーパーチップを買うつもりはさらさらない、小さくて安いサーバーがあれば十分だ、と答えたという。マイケル・マローンのロジックは、世界最高のシステムに最高性能のスーパーチップが要らないのだとしたら、どうして半導体産業界は大変なカネをかけて「ムーアの法則」を追っかけていく必要があるの? ということだったのである。

さて、その発言をめぐって、エリック・シュミットのインタビュー「Google's Schmidt Takes On Moore's Law」を読みながら考えていこう。

インタビュアーであるAlwaysOn誌の最初の質問

「You've also been getting attention about statements you made regarding Moore's Law, which we blogged on AlwaysOn and got some interesting commentary on. Do you think that Mike Malone and the Red Herring article properly reflected your position?」

は、以上解説してきたような背景を踏まえてのものである。

需要サイドのイノベーションがなければIT産業は成長しない

シュミットはこの問いに答えてまず3つのことを言っている。

「In the first place, we are all technology optimists. Everybody here believes technology is going to be great, that's not even a question here.」

「The second thing is that the [technology] industry has become completely demand-limited, not supply-limited.」

「The third is that because Moore's Law is running as fast as it is, we have a fundamental problem with revenue growth in our industry. It goes roughly like this. If you assume no innovation, then the product improves in price-performance by a factor of two every 18 months. So in theory, either your revenue drops by half or you have to sell twice as many computers to get the same revenue. It's a form of commodity business.」

第1に、自分たちがテクノロジー・オプティミストであること。これは、自分の「Forget Moore's Law」発言が「IT産業がもう成熟しておしまい」みたいな誤解につながらないでほしいという気持ちをこめたものだろう。ただ、第2に、IT産業の本質的問題が、供給サイドではなく、需要サイドにあるということ、第3に、このまま需要サイドのイノベーションがあまりないと仮定すれば、「ムーアの法則」によって価格低下が続いていく産業の、産業全体の成長は保証できないという、やや暗い見通しを述べている。

シュミットは、「Forget Moore's Law」論議は、「IT産業は成熟してしまったのか否か」論議から説き起こさなければならないと考えているようだ。

「We brought out new versions of Windows, which needed more PCs and more computers, or we brought out networking. The joke was that "hardware giveth and software taketh away" -remember that whole dialogue over the last ten years. So there would be demand drivers and these demand drivers were in two categories. One category was new applications, the Internet being the most recent example, media and so forth. The other category was international expansion.」

PC産業は、Windowsのバージョンアップが最新チップの性能の大半を消費するというような形で10年やってきたが、新しいアプリケーション(インターネットのような)とグローバルな普及拡大という2つの需要ドライバーがなければ真の成長はない。

「So for example, if Hollywood wins and our side of the industry completely loses, then there will be no access to this information, this media, and therefore there will be no growth in high tech. If we win and Hollywood completely loses, there'd be no new media produced. So there's a balance of interests. It's a genuine disconnect between the way the media businesses are run and the way high tech needs new content. We haven't found yet where that balance is, that too will be litigated. There will be laws and judges and products to solve that. This will take a very long time.」

そしてシュミットは、ここで唐突に、ハリウッド対シリコンバレーの対立について言及する。ハリウッドがIT産業の新しい需要創造を阻害しているという視点を示す。なぜなのだろう。

IT産業が成長する唯一の可能性

シュミットは、IT産業が成長を続けるための唯一の可能性は、Information expansionだと考えているようだ。

「Well, what’s going to draw in growth? My assertion is that the only thing that actually drives aggregate growth in high tech, is an expansion of information access-expansion from a specialized market to a generalized market.」

情報自身が爆発的に増える(expansion)、ということだけでなく、特定ニッチ市場で活発に行なわれている情報アクセスが、一般市場にまで膨張(expansion)していくことがないと、IT産業の成長はない。

この特定ニッチ市場から一般市場へ、という話については、彼が昔かかわったSunワークステーションの例と、Wi-Fiの例を挙げてこう解説している。

「This argument is pretty compelling. If you go through each of the [technology] waves, the key characteristic was that a specialized thing became generalized. In the Sun workstation case it was very specialized design systems becoming workstations for general use. In PCs it was desktop productivity. With the Web it was access to information that was previously published but not generally accessible. And so forth. Let's look at markets today that have that capability. One that's clear to me is roaming Wi-Fi networks. Roaming Wi-Fi networks clearly change information access in a fundamental way. So that will be a major growth driver.」

そして結論めいたこととしては、技術的にみて、2015年くらいまで「ムーアの法則」の継続は大丈夫だろうが、Information explosionがなければ、そのチップ能力を使い切ることはできないだろう、と語る。

「The physicists are busy doing their maneuver [to keep increasing chip density], and it's not going to stop until 2015 or past that. So I think that the only way to get high tech to boom, as opposed to just sitting here and having everybody be miserable, is to focus on this information expansion argument.」

シュミットが本当に考えていることは

ここまでのシュミットの肉声を僕は何度も何度も読み返してみた。そして、シュミットはきちんと言葉にしてはいないが次のように考えているのではないかと、僕なりに結論づけることができた。

「現在Googleが扱っている情報はテキスト情報が中心であり、その状況が続く間は、最高性能チップでシステム構築する必要はないが、いずれ音楽情報・映像情報が爆発的に増えれば、そこで初めて最高性能チップを使ったシステム構築が必要になるだろう、ただそのためにはハリウッドとシリコンバレーとの対立に象徴されるコンテンツ問題が解決されなければならず、そこがボトルネックになる」

そうだとすれば、ハリウッドの話が唐突に出てきた文脈も理解できる。インタビュアーには、そこまできっちり質問してほしかったなぁと思う。

さて、同じAlwaysOn誌が、Sun MicrosystemsのSoftware担当EVP、ジョナサン・シュワルツへのインタビューをしているのだが、その中でやはり、

「How do you respond to Eric Schmidt's idea that Moore's law is no longer relevant, that it's not the driver in the computing business anymore?」

と、「ムーアの法則」をめぐって質問をしている。

Googleのシステムは特殊で限定的な話という意見も

「I disagree. I think it's because his view of the world is somewhat limited. And I think he's very much focused on his search business and I'm not sure he's necessarily as attuned to the market opportunities in the computing business. He was my first boss at Sun, so I love the guy dearly and think very highly of him. But I think his experience at Novell and his experience at Google are a bit different than the experiences of the CIOs I talk to. I mean, Google is a company that builds their own PCs, builds their own operating systems, builds their own application servers, builds all their own infrastructure. And they do it for a very specific purpose.」

がシュワルツの回答であるが、これはこれで明快である。Googleが最高性能チップを使わないでシステム構築ができたのは、検索エンジンという特定目的のシステムであったからで、IT産業全体から見れば極めて部分的な特殊解なのだ、というのがシュワルツの意見である。たぶんシュミットの考えていることとは違うのではないかと僕は思う。

だからこそ、こういう仮説をぶつける形で、インタビュアーは、シュミットにそのシステム構築の思想を尋ねるべきだったのだ。インタビューしながらリアルタイムでそういうことまで考えるのはとても難しいことだけれど。

さて最後に。Googleのシステムの技術的な話に興味のある方は、PDFファイルだが、「WEB SEARCH FOR A PLANET: THE GOOGLE CLUSTER ARCHITECTURE」という最新論文が、学会誌IEEE Micro最新号に掲載されたので、どうぞご一読を。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。シーネットネットワークスジャパン および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。

このエントリーへのコメント

2

 Googleなどの検索エンジンのような水平分散アーキテクチャの採用が簡単な用途、すなわち「小粒なトランザクションが山のように飛んでくる」アプリケーションでは、Clustering(MassivelyParallelProcessing/Grid etc.色々と表現方法はありますが)によるスケールアウト・負荷分散のアプローチが有効でしょう。
 これが、分解不可能な単一のジョブに数時間もかかるようなアプリケーションの場合、ノイマン以降ずっと続いているコンピューティングパラダイムでは、単体性能の向上しか方法はありません。Moore's Lawは究極の「持続的イノベーション」であり、インテルのビジネスモデルが長期間WORKしている源泉です。従って、Jonathan Schwartzの意見は「技術的見地からは」ごくまっとうです。
 むしろ問題は、ノイマン型コンピューティングというパラダイムに対して破壊的イノベーションが登場していないため、性能が需要を追い越しているにもかかわらず、それに取って代わる選択肢がないことではないでしょうか?また、ソフトウェアという資産、プログラミング言語という資産が、このパラダイムに依存しすぎているためではないでしょうか?
 これら資産をあっという間に負債に変えてしまうような破壊的イノベーションは、果たしていつ起きるのでしょうか?そんな思いにずっと駆られています。

  Kenn on 2003/05/29

1

I also reached the conclusion that people will not continue to buy "IT" unless information itself gains the "new" marketability. Ask yourself again and again how to sell more computers, softwares, and IT services. Customers must "make money" with them, not "reduce cost". But how? Each existing market cap is fixed. What can we sell by computers? We should produce the new inexhaustible market intentionally. What is inexhaustible resource? Information, Media, and intangible intellectual property. How can we make such a market that people are willing to pay for? That is the problem I am tackling with my computers now. "The" information (processing) should be different from that on news paper, of course.

  Taka on 2003/05/28

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