最終更新時刻:2008年10月10日(金) 23時50分

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平野日出木さん、本当にそれでいいんですか?(上)

公開日時:
2006/11/23 17:49
著者:
佐々木俊尚

 オーマイニュースがこの11月、決定的局面を迎えた。引き金は、コメント欄に書き込めるオピニオン会員制度を廃止し、市民記者に一本化したことである。だが重要なのは制度の問題ではなく、この制度変更がどのようなプロセスで行われたのかということだ。

 このブログに、これまでの経緯を書き留めておこうと思う。

 オーマイニュース上で【ご意見募集】「この記事にひと言」欄についてが掲載されたのは、10月19日朝である。

 この以前に、私はオーマイニュース編集部の平野日出木デスクから相談を受けていた。このあたりのやりとりについては、月刊誌「論座」12月号に書いた「市民ジャーナリズムは、混乱と炎上を越えて立ち上がるか オーマイニュース日本版船出の裏側」という記事で詳しく述べた。この記事は、論座のウェブサイトに掲載されている。市民記者から以下のような声が上がっているというのだ。

 「記事の内容とは関係のない書き込みを何とかしてほしい」「誹謗中傷がひどすぎる。これでは議論にならない」「ほかのサイトのURLを貼るのはいかがなものか」「記事を削除してほしい」「『ひと言』欄を読むのが怖い。もう記事を書きたくない」、そして「このような誹謗中傷を書き込まれるなら、市民記者を辞めたい」

 オーマイニュースには、「市民記者会員」と「オピニオン会員」という2種類の会員制度がある。市民記者は名前や住所、銀行口座番号などを登録しなければならない。一方、記事のコメント欄(この記事にひと言欄)だけに書き込めるオピニオン会員は、基本的にはメールアドレスを記入さえすれば登録可能で、匿名性が高い。

 8月のスタート直後から、オーマイニュースのコメント欄は荒れまくった。その原因のかなりの部分は、人々が期待したほどには記事の質が高くなかったことがある。説得力がない強引な記事がオーマイにはあふれていて、それらに対して批判的なコメントが集中したのは当然だった。だがその一方で、オピニオン会員の中にはかなりひどい罵声を市民記者に対して浴びせる人も少なくなかった。それは日本のネット文化としてはごく普通の出来事なのだが、しかしこうした罵声の集合体が、ネットのコミュニティに慣れていなかった編集部や一部市民記者の神経を逆なでしてしまったのだった。

 オピニオン会員の中には、そうした論調に対して「記事内容がひどいからではないか。ひどい記事を書いておいて、批判がけしからんというのはあまりにも排他的な考え方だ」「そもそも市民記者はコメント欄での議論にほとんど参加していないではないか」と反論をする人が多かった。私もそうした意見には賛成だったし、繰り返し平野次長にはそうアドバイスしたのだが、しかし編集部では「匿名性の高いオピニオン会員の存在が、オーマイニュースを荒れさせる原因になっている」と判断するようになってしまったのである。

 8月にオープンして以降、オーマイニュースは9月から10月にかけてページビューがかなり下がってしまった。このあたりはAlexaのグラフを見ていただければわかる。この状態を何とか持ち直し、ページビューと市民記者を増やして、バナー広告も入るようにするというのが編集部に課せられたテーマで、そこで導き出された結論は「荒れた状態を解消すれば、市民記者がどんどん原稿を書くようになり、広告も入るようになるのではないか」ということだった。その背景には、オーマイニュースが「実名による責任ある参加」を標榜しているのにもかかわらず、実名ではないオピニオン会員の声が大きくなってしまっていることへの編集部の危惧(あるいは反発)もあったようだ。

 それで「論座」に書いたように、平野デスクは10月11日に私と会った際、「『ひと言』欄に記事への批判が書かれると、こんなふうに記事を書けなくなってしまう市民記者が少なからずいる。発言できる市民記者をできるだけ増やすためには、何らかの形で『ひと言』欄の運用ルールを変える必要があると思う」と言ったのだった。私はこれに対して、反発は必ず起きるし、その反発をきちんと受け止める方法を考えなければならないというような意味のことを話した。平野デスクはその時は最終的に「反対があるのなら、きちんと議論して、説得していくしかないと思う」と結論を下して、それで10月19日の上記記事になったのである。

オーマイニュースは今、悩んでいます。「この記事にひと言」欄の最適な運営方法は何か、と。
そこで、市民記者とオピニオン会員のみなさんにご意見を伺おうと、この記事を掲載することにしました。

 そしてこの記事のコメント欄で、議論がスタートした。たとえば、以下のような意見が出た。まずコメント133番、木舟周作氏。

まずコメント欄の在り方について。私は基本的には現状容認です。コメント欄の廃止には反対であり、もしコメント欄の開閉を記者自身が選択できるとしても、私は閉じるつもりはありません。(中略)これは私の主観ですが、創刊当初に比べるとどうしようもない中傷の類は減り、まっとうなコメントをされる方の割合が徐々に増えているような気がします。あまりに国語力のないコメントは、やはり無視され淘汰されていくのではないでしょうか。

 162番、マツ氏。

ネットでオープンにやるからには、そこにあるものは玉石混淆です。小さくはストレスを感じさせられるもの、大きくは攻撃されるリスクは避けられません。そして、反論も賛同もせずに黙殺ばかり。優しい言葉は欲しいけれど異論はお断り。選ぶ力も、守る力も、避ける力も、耐える力もないのならば諦めてください。その苦悩をここに放り投げている時点で、その努力すらも放棄したと言えます。

 全般的に見て、コメント欄の存続を求める声が圧倒的に多かった。そしてこれに対してコメント欄209番で、編集部の二木頼之デスクがそれまでの意見を集約してまとめたうえで、こう書いた。

もう1つ、みなさんにお聞きしたいことがあります。
「我々は実名で記事を書いているのに、彼らがニックネームなのはおかしい。お互い実名で議論すべきだ。今は“責任ある参加”とは言えない」――ある市民記者からのこの意見について、どうお考えになりますか?

 実はこの議論がスタートした段階で、編集部はオピニオン会員制度の変更についていくつかの素案を持っていた。それらは公にはされていなかったのだが、有力候補のひとつとしてオピニオン会員制度の市民記者への統合、もしくはオピニオン会員の実名化という案があったのである。二木デスクのこの質問は、この素案に沿ったものだった。

 この「実名化」という投げかけに対しても、否定的な意見が多数をしめた。「実名=責任ある参加、匿名=無責任などという妄想が、一体どこから出てくるのやら。脳内妄想を垂れ流し、コメント欄でさんざん寄せられた批判は完全無視(そのくせ個人のブログには出没して大暴れ)、その上何の反省もない駄文を2本も3本も投稿し続ける、音羽理史記者のような人間が、責任ある参加とやらを果たしていると言えるんですか?」「実名でも仮名でも、書いた文章がすべてでしょう。一般市民の名前が出たところで、何の意味もありませんよ。実名は、名前を出したい職業記者だけでもいいじゃないんですかね」「正直言って、今の日本社会で特にサラリーマンをしていて実名をさらして批判のコメントは書けないでしょう。自社あるは自業界に関する記事で事実誤認があったとしても実名では誰が見ているかわからないサイトで指摘はしにくいと思います」

 そしてコメント334番になって、平野デスクが書き込みを始めた。

記事の質が悪いから、コメント欄にきつい書き込みが集まるのだというご意見が多数ありました。そういう面があるかもしれません。ただし、編集部としては誹謗中傷は多寡の問題ではなく、ゼロにしたいと思っています。

 私はこのコメントを読んで、彼のネットコミュニティに対するこうした理解のしかたが、ここまで事態を悪化させたのではないかと思った。たしかにコメント欄には、罵声や誹謗中傷といったノイズのようなものも含まれている。きつい批判もある。しかしインターネットのコミュニティでは、聞きたくない批判はもちろん「ノイズ」だって存在するのが当然であって、それらを排除してはならない。「ゼロにしたい」というのは排除の論理であって、ネットのコミュニティで運営側が発言すべき言葉ではないと思ったのだ。おまけにここは、単なるネットコミュニティではない。市民ジャーナリズムを標榜するメディアなのだ。排除の論理と市民ジャーナリズムがなぜ同居できてしまうのか。

 ネットで議論を行うのであれば、それらのノイズについてはとりあえず頭の片隅に押しやったうえで、有用なコメント、優良なコメントだけをUFOキャッチャーによってすくい上げ、それら有用・優良なコメントがどのような意見交換を行っていて、どのような結論に向かっているのかを見ていかなければならない。もちろん、その「ノイズを頭の片隅に押しやる」という作業自体を、アーキテクチャによって実現することも可能だ。たとえばスラッシュドットのコメント評価システムなどはその好例だろう。しかし現状のオーマイニュースはまだ二次開発が具体的にスケジュール化されておらず、あと数か月は現行のひどいサイトのままで運営していかなければならない。となると、ノイズをどう処理するのかは、編集部や市民記者、オピニオン会員ひとりひとりのスキルにゆだねられることになる。

 「コメント欄は誹謗中傷ばかりだ」と苦情を言っている市民記者や編集部員は、ネットの世界に慣れていないから、ノイズばかりが目に入ってしまうのだ。一方、ネット議論に習熟している人たちは、意識的にも無意識的にもそうしたノイズを水面下に押しやってしまい、ノイズはあまり気にならない。

 とはいえ、この段階までの平野デスクの行動は整合性があった。コメント662番では、議論で提出されたアイデアとして、次のような意見があったと集約。

a. コメント記入ルールを見直し、それを徹底する
b. 文字数を制限する
c. 1記事に対する投稿回数を制限する
d. 記者にコメント削除権を持たせる
e. 記者にコメント開閉を選ばせる
f. 編集部がコメントをフィルターする
g. ボランティアを募り監視する
h. コメントを検索対象に含める
i. コメントの推薦機能をつける
j. コメント欄をツリー形状にし、論点が明確になるようにする
k. サイト内にブログを実装し、記事へのトラックバックをつけられるようにする

 そして編集部では、以下のような方法を考えていると提案し、「この案に対するご意見を30日(月曜)18時まで受け付け、そのご意見を熟慮したうえで、11月アタマをメドに決定をお伝えします」と書いたのである。

1.オピニオン会員の登録情報をより詳細にし、厳密に確認する。今の登録方法を改め、住所、電話、職業を追加記入していただく。
2.コメント欄は当面、ニックネーム(プラスID)で継続する。
3.ソーシャルブックマークへのリンクボタンを設置する。

 これに対して、コメント欄では反発が多数を占めるとともに、ひらりん氏が819番でこう書いたように、「編集部はなぜその結論に達したのか」ということを聞く質問も多く出た。

お願いなのですが、「編集部の総意」にいたる過程を公開していただけないでしょうか。議事録、レジメ、いかなる形でもよいのですが可能でしょうか。時期ははやいにこしたことはありませんが……。

 しかし平野デスクは「編集部の総意です」と短く答えるのみで、詳細な説明は行わなかった。

 そして11月10日。鳥越俊太郎編集長のクレジットで、「この記事にひと言」欄への参加方法を改定しますという記事が掲載される。ここでは先に平野デスクが提案した内容からさらに踏み込み、オピニオン会員を廃止して市民記者のみがコメント欄に書き込めるという改定内容が発表されたのである。

 以下、明日に続く。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。シーネットネットワークスジャパン および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。

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