最終更新時刻:2008年8月30日(土) 2時12分

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ライブドア元役員、欲望系Web2.0への挑戦

公開日時:
2006/07/10 12:59
著者:
佐々木俊尚

 ポッシュ(posh)という英単語がある。「洒落ている」「贅沢な」「高級感たっぷりの」といった意味の形容詞だが、「お洒落に見せる」「着飾る」と動詞としても使われる。

 「もともとはそんなにかわいくない女の子でも、自分を美しく装っていくことで潜在価値以上に自分を高めていくことができるかもしれない。もっと上のステージに上がりたいと望んで、階段を上がっていく。そんな彼女や彼らを応援し、暖かい目で見守ってあげ、さらにはタニマチ的に支援していけるような仕組みを作れないかと思った。ポッシュ、つまりインターネット上でセルフプロデュースを行う仕組みとしてサービスを実現できないかと考えたんです」

 そう話すのは、山崎徳之氏。そう、ライブドアの前代表取締役だったあの山崎氏だ。1971年生まれの彼は青山学院大卒業後、アスキーやソニーコミュニケーションネットワークなどを経て2000年、上場直後だった株式会社オン・ザ・エッヂに入社した。堀江貴文前社長が逮捕された後、役員だった山崎氏は暫定的に代表取締役に就任。その後6月14日の臨時株主総会で、上場廃止の責任を取って退任している。

 同時に役員を退任したのが、同じ役員のひとりだった羽田寛氏だった。1967年生まれ。東大農学部を卒業後、三和銀行(現東京三菱UFJ銀行)などを経て2002年に執行役員としてライブドアに入った。

 ライブドアを去った2人は今月、資本金100万円で「ゼロスタート・コミュニケーションズ」という株式会社を立ち上げた。両代表で、山崎氏が社長、羽田氏が副社長を務めている。社員はまだ12人。知人の会社のスペースを間借りして業務をスタートさせ、ようやく7月頭にオフィスを借りるところまでこぎ着けた。poshme.jpというドメインも取得した。7月末のサイトオープンに向けて現在、急ピッチで準備が進められている。

 羽田氏が話す。「ポッシュを、ソーシャルネットワークを使った個人のプロデュースサイトとして作るんです。ソーシャルネットワークサービス(SNS)ではなく、ソーシャルネットワーク(SN)。われわれはSNSはサービスとしてはもうmixiで終わっていて、これからはソーシャルネットワークをインフラとして使うあらたなサービスの市場が出現してくるのではないかと考えています」

徹底的にブラッシュアップされた戦略

 正直に言えば、ライブドアの元役員2人が新たに起業すると聞いたとき、私は最初「オン・ザ・エッヂに回帰するようなB2Bの会社か、それとも営業力バリバリの会社になるといったところか」などと思った。だが実際に会って話を聞いてみると、ゼロスタート・コミュニケーションズのサービスはそんな単純なものではなかった。Web2.0をベースにして、しかもかなり練り込んだマーケティング戦略が作り上げられている。お世辞を言うわけではないが、さすがライブドアの元役員というべきか。卓越した技術者として知られる山崎氏と経営戦略の専門家である羽田氏という2人の力量は、やはり驚くべきものがある。

 具体的には、ポッシュはどのようなサービスになるのだろうか。基本的には参加者がプロフィールを公開し、そのプロフィールに紐づけられた状態でお互いに情報を交換できるというSNの仕組みを利用する。

 たとえば女子中学生や女子高校生が自分の画像をマイページにアップロードし、その画像に対してSNの参加者たちが「写真集を出したらぜひ買いたい」「応援するよ」とメッセージを寄せる。中には「美人でもないのに、写真を載せるな」という辛辣なコメントもあるだろう。しかしそうやってやりとりが行われていくうちに、セルフプロデュースしたい女の子と、それを取り巻く人たちのコミュニティが徐々に形成されていくはずだ。

 ポッシュにおけるコミュニケーションは、応援や批評などの言葉のやりとりだけではない。たとえば写真集を出すことを目指しているのであれば、活動資金としていくばくかの金銭を投げ銭として寄付したり、あるいは「この人なら絶対メジャーになれる」と判断するのであれば、その人をデビューさせるファンドを設立し、そのファンドに投資するという行為も考えられる。

 さらにゼロスタート・コミュニケーションズでは、音楽スタジオや専門家とのタイアップも検討している。入り口(エントランス)の部分で、たとえばメジャーデビューを目指すミュージシャンが提携スタジオで楽曲を録音し、それをポッシュ上で配信するとようなこと。そして出口(イグジット)としては、映像や音楽の専門家をゼロスタート側で用意し、実際にメジャーでのプロデュースまで持って行く仕組みもあり得る。

「みんなの意見は案外正しい」を実現するポッシュ

 ポッシュは当初は写真(グラビア)だけでスタートし、秋に音楽をサービスに加える計画だ。もっともそうしたセルフプロデュースの分野は、写真や音楽だけでなく、小説や現代アート、写真家、コメディアンなど無限に考えられる。人間でなく、コンテンツやサービスのセルフプロデュースだって考えられる。「たとえば旅行。旅行に行きたい人から『こんな企画があったら行きたい』という要望を集め、そのコミュニティに多くの人が集まって参加者が定員に達すれば、実際にその企画が実現していくといったことも考えられる」(山崎氏)。今後はさまざまな分野に展開していくことを考えているという。

 「国民的アイドルになれるようなレベルじゃなくても、その八割ぐらいの人気を期待できそうなレベルだったら、ポッシュによってデビューできるかもしれない。そう考えている層のアイドルやミュージシャンの人たちに集まってほしいと思っている。要するにホリプロスカウトキャラバンをポッシュという仕組みでやろうってことなんだけど、肝心なのはそのタレントを評価するのが専門家ではなく、みんなの意見の集合体であるということ」と山崎氏は言う。

 スカウトキャラバンで新人発掘をする専門家というのは、結局のところ「人々がどのようなタイプのアイドルを欲しているのか」ということを鋭く察知し、それをイメージとして具現化できる能力を持っている人に他ならない。つまり人々の代弁者である。だったらもし、人々が持っているアイドルのイメージをダイレクトに具現化することができるのであれば、代弁者=専門家は不要になるではないか。『ニューヨーカー』誌のコラムニスト、ジェームズ・スロウィッキーが書いた『「みんなの意見」は案外正しい』(角川書店)という本では、そのあたりのことが端的に説かれているので、興味のある方はぜひ読んでみてほしい。

 Web2.0というのは、そうした「みんなの意見」をダイレクトにインターネット上に表出させる装置である。だからWeb2.0時代のスカウトキャラバンがポッシュのような仕組みになっていくというのは、自然な進化の流れのように思われる。

mixiがSNSのすべてなのか

 ポッシュをめぐるもうひとつのキーワードは、ソーシャルネットワークの進化だ。

 SNSでは現在、mixiが圧倒的な支持を集めている。たとえばインプレスの「インターネット白書2006」によると、SNS利用者の82.6%がmixiを利用している。今年3月には利用者が300万人に達し、ユーザーの7割が3日に一度ログインするという高い回遊率を誇っている。いまや日本ではSNSといえばイコールmixiであるという状況になっている。

 しかし本当にmixiは、SNSの完成形なのか? ゼロスタートにとっては、その疑問がソーシャルネットワークに参入する最初のスタート地点となった。

 羽田氏が話す。「mixiは上品な社交場で、ユーザーはただ人と触れあいたいためだけにmixiに参加している。しかしSNの可能性が100だとしたら、単に人と触れあいたいというニーズはその可能性のうちの5や10程度しかないのではないか? ひょっとしたらSNにはまだ95の可能性があって、手つかずに残されているのではないか? SNSはここまでは、単なる物珍しさで増えてきた側面もあって、いまはまだ過渡期なのかもしれない。たとえばブログも最初のころはただ単に面白がられて多くの人が使うようになったけれども、しかしだんだん飽きられている部分もある。そこでブログを単なるサービスとしてではなく、プロモーションやCMSのツールとして使うようになってきている」

 いまはまだソーシャルネットワーク(SN)はSNSというサービスとして利用されているだけだが、いずれブログと同じようにSNはネットにおけるインフラ的アプリケーションのひとつとなっていく可能性がある。そのフェーズでは、SNは単なる世間話の場ではなく、もっと別の用途に合わせたツールとして使われるようになるのではないか――それがゼロスタートの考えたSNの将来像だった。

 そうして思考をブラッシュアップしていくうちに、単に人と触れあうというだけでなく、自己顕示欲や「自分の評価の良さを認めてほしい」という目利き欲、「自分が評価した者(物)がメジャーになると嬉しい」「育てたい」というタニマチ欲などをうまくSNに取り込んでいけば、あらたなマーケットの創出になっていくのではないか――山崎氏と羽田氏はそう気づいたのである。本能や欲望とSNを組み合わせるというあらたなコンセプトの誕生だった。

 羽田氏は話す。「mixiは上品な社交場で、ギスギスしたビジネスは成り立ちにくい。しかし自分を出して評価するという本能のぶつかり合いだったら、金を払ってでもモノにしようと考えたり、カネを使ってでも一流になりたいと考えるなど、ビジネスが成り立ちやすい土壌がある。その本能を、サービスとしての付加価値に変えていけるのではないかと考えている」

ポッシュの収益源の目標はサブコンテンツ

 ポッシュの収益源は、以下の3ルートが考えられている。

 まず第1には、クリックアンドモルタルモデルだ。才能ある若者をデビューさせることに成功すれば、サブコンテンツ的な商品がどんどん生まれてくる。たとえば写真集に付随してDVDやCD、Tシャツ、キャラクターグッズなどの展開が見込まれる。このあたりのマーケットの拡大は、萌えビジネスの応用となるだろう。しかもこれまではプロフェッショナルがマーチャンダイズしていたようなサブコンテンツ商品を、ポッシュに参加している参加者たちが自分たちで作り、プロデュースできるようになる。

 第2は、トラフィックの増加に伴うバナー広告などのモデルである。いわば従来型のネットコンテンツ収益と言える。そして第3は、ポッシュのシステムの外販だ。SNがmixiのようなサービスとしてだけでなく、今後ネットのインフラとなっていくのであれば、SNの仕組みを使ったさまざまなサービスやイントラネット的展開が期待できる。そうした展開を求めている企業にポッシュのシステムを売っていこうというのがゼロスタートの戦略であり、すでにいくつかの引き合いは来ているという。

 山崎氏は話す。「SNがもの珍しかった時代はすでに終わり、今後はネットの世界で本当に必要なものなのかどうか、あるいはリアルでも必要とされるものなのかどうかが問われていくフェーズに入っていく。SNがキャズムを超えられるかどうかは、これからの取り組み次第だと思う。ポッシュによってSNはキャズムを超えることができるのではないか――われわれはそう考えている」

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。シーネットネットワークスジャパン および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。

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