「『インテリジェンスを持ったXMLドキュメント』という考え方の基にソフトウェアのインストールを不要にしよう」という考えで作り始めたのがUIEngineだが、実はこの発想でソフトウェアプラットフォームを作ろうという試みは、一度マイクロソフト内で試みて失敗している私である。90年代後半に、「Microsoft、インターネット時代の次世代オフィスアプリケーションの開発に着手」と大騒ぎをされながら、正式なアナウンスも無いまま消えてしまったNetdocsというプロジェクトである(参照)。
失敗の原因は色々とあるのだが、後になって反省してみた結果、Netdocsは大きく分けて二つの大きな間違いを犯した、と私は解釈している。
一つ目は、リッチクライアントの誘惑に負けてしまったことである。プロジェクト発足時は、「全てをXMLとDHML(今で言うAJAX)で開発し、Internet Explorerさえ走っていればWindowsでもMacでも動く」という意思を持って作り始めたのだが、HTMLの表現力の弱さ、Javascriptで書くコードのメンテナンス制の悪さに負けて、Netdocs独自のプラグイン(ActiveXコントロール)を作り初めてしまったのである。それでも、最初は「DHTMLではどうしても不可能な部分のみC++で開発してよい」と言う方針でエンジニアたちには指示を出していたのだが、一旦その道を開いてしまうと、もう止めることはできなかった。あっという間に数メガバイトのプラグインが出来上がってしまったのである。
Netdocs発足当時に、ライバル視していたStar Officeのアーキテクチャーを調査した私は、「100%がクライアント側で走るStar Officeは、(彼らが主張するような)インターネット時代にふさわしいアプリケーションアーキテクチャーでは全くない」と批判していたのだが、それとほぼ同じことがNetdocsにも起こってしまったのである。
二つ目の間違いは、それをMicrosoft内部で作り始めたことである。Windows95の成功でマーケットシェアをさらに伸ばしていたMicrosoft内のエンジニア達にとって、わざわざ痒い所に手のとどかないJavascriptで苦労して開発する理由は見当たらなかったのである。それに加えてOfficeグループからの圧力である。「何で毎年莫大な利益を生み出しているMicrosoft Officeと対抗するものをサービスとして提供するのか」という彼らの主張は、短期的に見たら正しく、結局のところNetdocs側が譲歩してしまったのである。その結果、Netdocsは当初の計画とは大きく違うものに変質して行き、やがて(私の退社後に)空中分解することになる。
今になって考えてみれば、「イノベーションのジレンマ」のモデルケースのような状態にはまってしまったのである。
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