パネルディスカッションの方で「ニコニコ動画の魅力って何?」という問いが出ていた。あれこれ書いていたら長くなったので、こちらでエントリとしてまとめてみる。
ユルさの強さ
リンク先でも書いた通り、私はニコニコ動画(以下ニコ動)の魅力は「ユルさ」にあると思っている。こう書くとあたかも「ふざけているということか?」と誤解されそうだが、そうではない。実際サービスの品質は低くないし、ビジネスとしてきちんと成立させようともしている。
ではユルさとは何か。私はその要因として以下の3点を考えている。
●ビジネスっぽくない
ニコ動にはビジネスっぽさを感じない。梅田望夫さん的なアナロジーで喩えるなら「スーツ臭」が薄いとでもいう感じだろうか。すなわち、とにかく自分たちとユーザが楽しいと思うことをサービスとして作り上げていくことを、ビジネスを作ることより優先させているように見える、ということである。
ただここで重要なのは、とはいえ彼らがビジネスを忘れているわけではない、ということである。実際ここに至るまで、YouTubeからの切断、回線費やスイッチでの膨大な費用発生、トラフィックの急激な増加等、幾多の山谷があり、彼らはそれを乗り越えてきている。相変わらず不安定なtwitter等を見てみれば、これだけでも相当な腕前なのは明らかだ。
またそうした経験が、ニコニコ市場のような事業開発にも反映され、新しいエコノミーを作っている。これは経験が組織に還元されなければできない動き方であり、彼らが立派な事業体であることの証左でもある。こう考えると、彼らはビジネスを忘れているのではなく、忘れたフリをしている、つまり意図的にスーツ臭を消しているということである。これはかなりしたたかな事業体である。
●ちゃんとしようとしていない
ニコ動にはいろいろな意味で「ちゃんとしようとしていない」フシを感じる。たとえばざっと眺めた限りの印象だが、技術的にエレガントな(あるいは高度な)実装をしようという意識はあまり感じられない。どちらかといえば現状に対応することに専心しているように見える。それこそ「ギーク臭」も薄いというところである。
また著作権周りも相当グレーな運用をしている。動画投稿サイトは、神経質なほどシロにこだわるところもあればあえてクロなところもあるが、ニコ動は中心よりややクロ側に振った設計運用のように思う。それに「映像に文字をかぶせる」という手法自体、新たな解釈が求められるものでもあり、やはり既存の枠に収まろうとはしていない。
おそらく、リソース制約がある中でそうせざるを得ない、という背景があるのだろう。ちゃんとしようにも今はできないということだ。こういったニコ動の姿勢をして「不作為だ」と眉をひそめる向きも存在するだろう。それこそひろゆき氏が関与していることから、賛否は別にして2ちゃんねると同じ臭いを嗅ぎ取る人も少なくないはずだ。
ただ、制度も技術も揺れ動いており、作為・不作為の定義が曖昧なのが現状である。おそらく最もお行儀が良いのは、すべて定まってからサービス開発に着手することなのだろうが、たとえばビデオデッキの登場時にメーカーは(放送・コンテンツ業界に対して)お行儀が良かったかといえば、そんなことはない。ならば自己解釈でサービスを立ち上げる自由は認められるべきだし、その意味で私は彼らのスタンスは今のところ正しいと思う。
●囲い込もうとしていない
もう一つ、ニコ動は必ずしも顧客を囲い込もうとしていないようにも思う。もちろんIDによる管理・認証等はあるのだが、そこから無理にユーザの導線を作らず、ユーザが使いたいように使える環境が作られているように思える。そして、ネットビジネスの定石とは正反対に見えるこのスタンスが、トラフィック獲得に効いているように思うのだ。
たとえば私は滞在時間で言えば、おそらくニコニコ動画よりもYouTubeの方が長いのだが、それでも誰かのBlogを読んだりメールやメッセンジャーで紹介されれば見に行く。あくまで仮説なのだが、おそらくそういうユーザが相当数存在し、最終的なトラフィック量の増加に結びついているのではないだろうか。
ここは結構興味深いところで、ユーザを囲い込んでロイヤリティを上げるよりも、ある程度ユーザを突き放した方が、実はロングテールの獲得(=全体のトラフィック獲得)につながるのかもしれない。特にそういった定石路線は、よほどうまくやらないと「スーツ臭」が一気に漂い、目の肥えたユーザは「ひいてしまう」だろう。その意味でもこうした戦略が現状はうまく機能しているように思う。
裃の着用を求められるツール・ド・フランス選手
とはいえ、このまま成長路線を邁進できるのかは、まだ分からない。たとえば上記に挙げたニコ動の魅力は、裏返せばそのほとんどが「過渡期的状況への対応をとびきり上手にこなしているだけ」とも言えなくはない。喩えるなら、ツール・ド・フランス出場選手による自転車操業のようなものである。
実際このあと、あらゆる面でステージが変わる場面がやってくる。トラフィックさばきしかり、著作権対応しかり。またニコニコ市場では今後より厳格な顧客管理も必要となろう。この段階では「スーツを着る」ことが必要となるが、着慣れないスーツ姿は不格好に見えるように、それまで醸成してきたサービス文化との違和感が当面はあちこちに表出するだろう。
これらはファイナンスの問題とも一体である。たとえばトラフィックだけで考えても、私がざっと見積もる限り、今後の成長に対応できるだけのキャッシュフローを生み出す体力は現状のまだニコ動にはまだないように思う。それくらい回線調達を含めたトラフィック処理は面倒なのだ。また、コンテンツも今後は契約ベースでの調達が必要となろう。
となると事業継続のための資本調達が求められる。しかし特に今の日本の資本市場では、スーツどころか裃の着用を求められるし、こうなるとそもそも裃を着る資格を有しているのかという問題となる。それこそYouTubeがGoogleに買収されるというエグジットを選んだように、単にIPOすればいいというような安直な資本政策では解けない課題である。
救世主は初音ミク?
また現状の日本は、特に商用コンテンツ利用周りで彼らのような動き方をひとまず封じる方向にあり、場合によっては訴訟リスクを抱えることも予想される。彼らの立ち振る舞いを考えればロビイングによる対応の可能性はおそらく小さい以上、ファイナンス以外にも事業面でのブレイクスルー(いなしや撤退を含む)が必要となろう。
となると、ニコ動にとってもっとも扱いやすいのは、ユーザ自身が制作したコンテンツをユーザの意志で掲載してもらうである。おそらくここで、初音ミクのようなツールが効いてくるのではないだろうか。すなわち、ユーザがコンテンツを制作・流通しやすい環境の提供である。
そう考えながら改めてサイトを眺めてみると、ユーザインターフェースが改善されていたり、Blog等との連携がしやすくなっているなど、着々と手を打っている。改めて、自分たちが何をすべきかがよく分かっているな、と思わせられる動き方である。
実際のところ課題も多いし、それゆえに案外あっさり「やーめた」となる可能性も否定はできない(冒頭に触れた「ユルさ」もその布石の一つと考えられなくもない)。ただそのあたりも含め、進むにせよ退くにせよ、日本のネットビジネスに大きな足跡を残すことは間違いない。生きた教材として、今後もあれこれ眺めてみたい。
※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。シーネットネットワークスジャパン および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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